藤花一拝乙夜覧

藤花みのりちゃんコレクションの本を語るこーなー

#008 チェン・チウファン『荒潮』

『アステリズムに花束を』ってアンソロジー読みました?百合SFアンソロなんですけど…えぇ…偏見なく普通にSF小説として面白いので読んでほしい本です。以前紹介した『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』(小川一水)も同書が原作です。今日紹介するのはアンソロジーに参加した作家のひとり、チェン・チウファン(スタンリー・チェン)のデビュー作『荒潮』(原題: Waste Tide)です。

 

この本との出会いは『アステリズムに花束を』の『色のない緑』という作品の良さみが深かった(いわゆる言語SFで、モニカという研究者の死の原因を解き明かす作品です。Just Monika.)ため、丸善まで探して手に入れた作品です。

 

舞台は近未来の中国、世界中から廃棄される電子部品を処分するシリコン島と呼ばれる島。人力でプラスチックと金属を分別したり酸洗いして資源に変えます。そ、人力。この島では「ゴミ人」と呼ばれ、島を支配している御三家に搾取され、島民からも不可触賎民として扱われる階級の人々が、汚染に苦しみながら生活しております。そこにやってきたのはテラグリーン社のスコットと通訳の陳開宗(チェン・カイゾン)。クリーンなリサイクル技術と有利な取引価格を提示し、御三家の一つ陳家の血を引く陳開宗とともに交渉に挑みます。しかし、どうやらスコットには別の思惑があるようで、御三家と交渉や抗争を繰り広げる中それが明らかとなっていきます。御三家、ゴミ人、テラグリーン、さらに環境保護団体や謎の組織も現れて利害関係は複雑怪奇。

 

そして、物語の重要な鍵を握るのが米米(ミーミー)というゴミ人の女の子。彼女(と保護者の文兄さん)が偶然手に入れた一つの装置が原因で、物語に大きな影響を及ぼしていきます。そして、ゴミ人たちは自らを人として扱ってもらうために、島民たちに反旗を翻します。その騒乱の中で米米はどう行動するのか…というのが本作。

 

「荒潮」というタイトルにはさまざまな意味が込められています。世界中のゴミが打ち寄せるウェイスト・タイド。潮の流れで占う観潮、その波乱の雰囲気。物語を読み終えたとき、その意味を感動すること間違いなしです。

 

本作の魅力は作者チェン・チウファンによる御三家の抗争の描写であり、知的な表現能力の豊かさにあります。作中で「血とジャングルの掟」と表現されたように、生臭いまでにシリコン島での利権闘争が描かれます。そして、単純な娯楽小説にとどまらず、環境汚染や廃棄物、それによって苦しめられる人々を克明に描いた作品です。

 

現実の環境汚染も止まるところを知りません。まさに、我々は環境と階層という混迷の海、荒潮の中に居るのです。